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メールマガジン「がんばりすぎないセキュリティ」No419 (25/08/18)

かかってきた電話番号は信じていいの?(419号)


数年前から、発信者の電話番号を詐称するという事件が多数発生しています。

特に2025年に入ってからは、警察署の代表番号(末尾が0110のところが多い)を詐称する事件がたて続けに起きています。

聞いただけでは信じがたい話ですが、本当にそんなことが可能なのでしょうか?

今回は、電話の発信者番号の仕組みと対策についてお話します。


1. 発信者電話番号の偽装とは?

スマホで電話がかかってくると、非通知でない限り、電話番号を表示してくれます。また、固定電話でも発信者番号を表示してくれるナンバーディスプレイのサービスが一般的です。 特に高齢者にとっては、ナンバーディスプレイは知らない人からの電話を避ける効果もあり、よく利用されています。 ところが、ここ数年で、画面上の発信者番号がホントの発信者番号と違うという事案が多数発生しています。 地元の警察代表番号を騙るようなケースも多発しており、電話番号だけで相手を信じるのは危険と言えます。 一体どんな方法でこんなマジックのようなことが実現できるのでしょうか?

2. 本当の発信者番号は表示されない

結論から言いますと、スマホやナンバーディスプレイで表示される電話番号は実際の発信者の電話番号とは別のものが指定できるのです。 ずっと前に「消防署の方から来ました」(決して消防署の人ではない)と言って消火器を売り付ける詐欺が流行しました。 また、裁判所からであるかのように見せかけた郵便物の詐欺というのも昔からあります。 これらは、自分の身分を詐称するタイプの詐欺ですが、発信者番号の詐称も同類の詐欺と言えます。 ただし、訪問販売での口頭で説明や郵便物の手法に比べると、少々手の込んだ仕組みが必要になります。

3. CLIという番号

固定電話(ナンバーディスプレイ)でも携帯電話でも、電話がかかってくると交換機や基地局から電話番号が通知されます。 その電話番号を伝えるのは、当然ながら発呼側(はっこ:電話をした側)の仕事です。 自分の電話番号をそのまま伝えて問題なければ、それでいいのですが、それでは具合が悪いケースもあるのですね。 例えば、会社であれば、個々の電話番号ではなく、先方には代表番号を伝えたいでしょう。(でないと誰からの電話かわからなくなる) これは、サポートセンターやコールセンターからの折り返し電話もそうですね。 こういった需要に応えるため、着呼側(ちゃっこ:電話を受ける側)に伝える電話番号は発信をする電話会社側で指定できる仕組みになっています。 この番号のことをCLI(Calling Line Identification:発信者番号通知)と呼びます。 このCLIは各電話会社が管理することになっておいて、通常は契約電話番号をCLIとして通知します。 ですが、、敢えてCLIを契約番号から変えたいケースがあります。 その代表が、企業の代表番号(ダイヤルイン)です。 大きな企業では1つの事務所で複数の電話回線を契約します。 ですが、代表番号以外から電話した時に実際の番号が表示されると「これは誰?」となりかねません。 どの電話番号からかけても、代表番号が表示された方が好ましいのは明らかです。 この場合、電話会社は、CLIを代表番号に設定しておくわけです。 こういったCLIの変更は複数契約や、電話転送サービスの場合の特例です。 一般利用者が勝手にCLIを変更したりすることはできません。 つまり、通常の方法では、警察の電話番号をCLIに設定することはできません。 国内の電話会社を使う限りは...。 ですが、海外を含めると話が全く違ってきます。

4. CLIの悪用

最近は、日本の多くの会社が海外にコールセンター/サポートセンターを設置しています。 こういったコールセンターでは電話やチャットによるサポートを提供しています。 当然ながら、電話を受ける時は、日本国内向けに受けた電話を海外にあるコールセンターに転送します。 コールセンターから折り返し電話をする時に表示される番号は、日本国内の番号にしたいでしょう。ベトナム(+84)とかインド(+91)からの電話だったら驚きますもの。 ですので、サポートセンターを置く会社は、CLIとして日本の電話番号を指定します。 これ自体は全く問題ない正当な利用です。 ですが、この仕組みを悪用されると大問題になります。 というか、既に問題になってます。 つまり、海外の電話会社で契約をすれば、CLIとしてなんでも登録できちゃうわけです。 だからといって、電話会社が悪いとは言えません。 電話会社の側は、お客が言ってきた発信者番号を疑う理由がありませんから、言われるがままに指定の番号を登録するしかありません。 現実問題として、日本の電話番号なんてチェックできませんしね。 これで契約した電話番号から電話をかけると、受けた側は国内の警察署から電話がかかってきた、としか見えません。 いや、そんな危険な仕組みは改善すべきだろ!と言いたくもなりますが、この仕組みは国際的な枠組みとして世界中で使われています。 仕組みを変えようという動きはあるようですが、めちゃくちゃ大変でとても一朝一夕に解決できるものではありません。

5. じゃあどうすればいいのか?

上述の通り、仕組みが安全なものに変わるには、相当な時間を要します。 こちら側での対策が絶対に必要です。 事実と異なるCLIが表示されること自体は、利用者側ではどうにもなりません。 一方で、電話をきっかけとした詐欺の半数以上が海外からという統計もあります。 ということはですよ、「ややこしい電話がかかってこない」ために(少々大胆ですが) 海外からの電話を全拒否するというのはどうでしょうか? そんなのあるのかよ?と思ったのですが、どうやらそんなサービスがあるようなのですね。(筆者私もこの記事を書く過程で知った) 国際電話不取扱受付センターという団体があります。 これはNTTやソフトバンク、KDDIなどが共同出資して立ち上げたそうですが、ここでは 国際電話を全て拒否するようにしてくれるそうです。 https://www.kokusai-teishi.com/ これ、特にご高齢の家庭では、効果的な対策だと思います。 念のため、書いておきますが、国際電話がシャットアウトされちゃうので、サポートセンターが海外にある場合、先方からの電話が受けられなくなる点は注意が必要です。 ま、その場合でも、こちらから電話するなど、何とでもなるでしょうが。 さて、詐欺の全てが国際電話とも言えません。 かかってきた電話番号を信じないことも(今回の発信者番号詐称とは無関係に)大切です。 仮に警察を名乗る電話なら、公式ページなどで署の代表番号を探す、#9110(警察が運営する相談番号)にかけるといった従来から言われている対策は今も有効です。 公的機関(役所、裁判所など)や民間会社を名乗る場合も同様で、インターネット上で電話番号を確認する習慣を付けましょう。

6. まとめ

今回は、CLI(Calling Line Identification:発信者番号通知)と呼ばれる電話の仕組みについてお話しました。 特に、2025年になってから、CLIの仕組みを悪用して、いかにも公的な機関から連絡をしているかのような電話がかかってくることが増えています。 仕組みとしては、かなり古くからあるのですが、昨近の国際電話料金の低下もあいまって、犯罪者たちの目には新たな詐欺手法として注目されているようです。 特にご高齢のご家庭では、固定電話+ナンバーディスプレイという組み合わせも多いと思います。表示される番号が必ずしも正しくないということはもっと知られるべきだと思います。 次回もお楽しみに。 今日からできること:  ・国際電話は拒否しましょう。  ・不審な電話と思ったら、公式ページなどで電話番号を確認しましょう。 (本稿は 2025年8月に作成しました)

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