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ドメインの維持とメンテナンスが大切であることはこのメルマガでも何度かお話しています。 ドメインを持つということ(391号) https://note.com/egao_it/n/nc763d9fb3b79 No336 ドメインとペットは最後まで面倒を見ろ https://note.com/egao_it/n/nb426b591c33d ですが、実際にドメイン更新を忘れたら何が起きるのでしょうか? 今回はいつもと趣向を変え、ストーリー仕立てにしてみます。 なお、下記に出てくる人物やドメイン名は全て架空のものです。1. プロローグ
トシは30代で脱サラをして、とある地方都市に転居し、農家になった。 主な商品は、低農薬をウリにした新鮮なくだものだ。 ブランド名は「トシ=ファーム」。 このご時勢だから、インターネットを上手に利用し、個人のお客様から注文を取ることで生計は立てられるのだ。 ブランドを大事にしたいことから、トシ=ファームでは、 toshi-farm.jp という独自ドメインを取得し、自社ブランドの通信販売サイトを立ち上げている。 この、toshi-farm.jp の売上をもっと増やしたいのだが、知名度も低いため、なかなかうまくいっていない。 現実には、注文のほとんどを大手の通信販売サービスに頼っているのが現状だ。 そんなこともあって、toshi-farm.jp のページ更新も遅れがちで、ますますお客さんが来ないという悪循環に陥っている。2. メールが受け取れない?
大手の通信販売サイトでの注文処理を終えた時、独自ドメイン側の注文メールを確認しようとメールソフトを起動させると、「User Unknown」という妙なエラーが出る。 「知らないユーザだなんて冷たいなぁ。これって、そろそろパソコンの買い換え時期ってことか?」 こんなエラーが出たのは初めてだったが、この日は特に気にせずメールソフトを閉じた。 異変に気づいたのは、翌日だった。 久しぶりに toshi-farm.jp のページを更新しようと、公式ページ https://www.toshi-farm.jp にアクセスすると、全く覚えのない画面が表示される。 本来なら、トシ=ファームのロゴと農園の写真が出てくるはず。 ところが、画面には、いかにも水商売で使われるようなドレスを着た女性がにっこりほほえみ、その下には「高時給、ナイトワークガール大募集」のあおり文句が出ている。 我が目を疑った アクセス先を間違ったのかと、ブックマークを確認しても間違いではない。 また、画面の再描画(リロード)やインターネットブラウザを再起動したりもしたが、変化はない。 まさかと、思いつつ、スマホでアクセスしても、やはり女性がほほえむ画面になる。3. サイトの乗っとりか!
最初に思いついたのは、誰かがパスワードを入手して、管理画面からページ内容を改ざんしたケースだった。 だが、パスワードは十分に複雑なものにしている。またレンタルサーバの運営会社に確認しても、ログインは全てトシの自宅からだという。 一体何が起きているというのか? その時、トシのスマホが鳴った。メールが届いたようだ。 うろたえつつも、メールを見ると全く知らない会社名だ。ただの広告なら削除しようとタイトルを見て、さらに驚いた。4. ドメインの買い戻ししませんか?
メールタイトルはこうあった。 「toshi-farm.jpは必要ございませんでしょうか」 何のことだ。toshi-farm.jpはオレが保有しているドメインだぞ。 必要もなにも...。 え?まさか? 全てがつながった気がした。 ひょっとして、オレの保有しているドメインを横取りしようとしているのか? というか、既に横取りされてしまったのか? こう考えるといろいろと合点がいく。 そういえば、昨日、急にメールが取れなくなったよな。 今考えれば、「ユーザが見つかりません」ってのは横取りされてたってことか。 あれも、こいつらのせいか! それに、ウチのページがエロサイトみたいに改変されたのも...。 けしからん話だ。「必要でしょうか」だと。盗人たけだけしいにも程がある。 憤りながら、メールの続きを読むとさらに腹立たしいことが書いてある。 「もし必要でしたら、80万円にておゆずりすることも可能です」 何をふざけたこと言ってるんだ。しかも金銭要求だ?犯罪だろ!こんなの。 まずは、警察に相談...まてよ、こないだ情報処理なんとかって専門家さんと名刺交換したよな。 あ、これこれ、えがおIT研究所のしみずさんか。5. それ、合法なんですよ
しみず「はい。えがおIT研究所、しみずです」 トシ「あ、しみずさん。実はかくかくしかじかで...。」 しみず「それは大変でしたね」 トシ「で、とりあえず警察に行こうと思うんですが、ついてきてもらえますか?」 しみず「でも、それ多分合法ですよ?」 トシ「え?だって勝手にこちらのドメインを使ってるんですよ。不法占拠じゃないですか!」 しみず「トシさん、今年はドメインの維持管理費用を支払いしましたか?」 トシ「え?維持管理費用って?」 しみず「ドメインって毎年の支払いが要るんです。支払いが滞るとドメインの使用権はなくなります」 トシ「ドメインって保有者が占有できるんでしょ?」 しみず「はい。でも支払いが滞ると占有できる権利を失うんです」 トシ「でも、そんな連絡来てないよ」 しみず「ここ1年でメールアドレスの変更してませんか?」 トシ「...あ、変えたかも。ちょっと前のメアド見てみます...。」 .... トシ「あ、来てる。3か月くらい前です」 しみず「3か月か。やられちゃいましたね。多分失効してます」 トシ「そんな。なんとかならないんですか?」 しみず「救済手段もあるにはあるのですが、長くて2〜3ヶ月なんです。それを過ぎると基本的には救済手段はありません」 トシ「ってことは、 toshi-farm.jp は...」 しみず「そのメールを送ってきた会社が占有権を持っているのだと思います」 トシ「それってズルくないですか?訴えられないんですか?」 しみず「更新料を支払わなかったからには、トシさん自らが権利放棄したわけですよね。ですから、誰かが取得するのを妨げる権利もないということになります」 トシ「そんなぁ...。」 補足: ドメインの有効期限が切れた後も、いくつかの段階を踏むことになっています。 Grace period(更新猶予期間) →30日が多い。 →この間に支払えば通常どおり更新ができる。 Redemption period(抹消復活期間) →30日〜45日が多い。 →この間は追加費用が必要となることが多い。 Pending delete(削除保留期間) →5日〜7日が多い。 →削除手続きのための期間 上記の期間を過ぎると、ドメインは誰でも取得できます。6. そのドメイン、維持管理できますか?
トシ「じゃあ、先方のいうなりに何十万も支払えってこと?」 しみず「うーん、判断の難しいところですね。確かに支払えば再利用できます。」 しみず「でも、よく考えていただきたいのです。本当に toshi-farm.jp が必要ですか?これからも使い続けますか?」 トシ「いや、売上の大半は大手の通信販売サイトですし、恥ずかしながらサイト更新も遅れがちでしたので...」 しみず「厳しいことを言うようですが、維持管理できないドメインを保持することはかなりのリスクですよ。トシさんのような更新忘れの多くは、利用頻度の低いドメインで起きているんです」 トシ「わかりました。少々思い入れのあるドメインですが、今回はあきらめます」 しみず「賢明だと思います。本当に余裕ができれば取り戻せばいいのですから」 トシ「え?どういうことですか?取り戻せるって...」 しみず「これは保証できる話ではないのですが、更新忘れを狙って中古ドメインを取得し、高値で売り付ける商売があるようなのですよ。かなりグレイな商売ですけどね。彼らから見て、買い戻しされなかったドメインは不良債権で、1年後には手離すことが多いようなんですね。」 トシ「ということは、来年には...」 しみず「トシさん、さっきも言いましたよね。維持管理できないドメインは取得しちゃいけないよって。笑」 トシ「は、はい。それは重々に。笑」7. エピローグ(1年後)
トシ「しみずさん!あれから自社サイトを維持管理できる体制も整え、toshi-farm.jp を再取得することにしました。」 しみず「それはおめでとうございます」 トシ「でも不思議なんですよ。1年経ったのに、まだ toshi-farm.jp は解放されていないみたいで。どうしてですかね?」 しみず「それは、前回もお話した猶予期間があるからですね。きっとあと3ヶ月もすれば、ドメインが解放されると思いますよ。」 トシ「そういうことか。じゃあ3ヶ月待ちます」 しみず「はい。きっとうまくいきますよ。自社サイトをしっかり育ててくださいね」8. まとめ
ドメイン取得についての情報はいくらでも見つけられますが、ドメインを誤って失効させてしまった時のことは意外に知られていません。 今回は、不注意によってドメイン失効してしまったケースについて、ストーリ仕立てで書いてみました。 皆さんの中にも独自ドメインを保有されている方はおられると思います。 くれぐれもドメイン失効とならないようにご注意ください。 今回は、ドメインを失なった時に起きることについてお話しました。 次回もお楽しみに。 今日からできること: ・ドメインの有効期限は必ず把握しましょう。 ・メールアドレス変更時は、ドメイン管理会社にも連絡しましょう。 ・ドメイン管理を外部委託する場合でも更新状況は確認しましょう。 (本稿は 2025年8月に作成しました)
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