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メールマガジン「がんばりすぎないセキュリティ」No405 (25/05/05)

あなたの知らないLANケーブルの世界(405号)


パソコンなどでの有線ネットワークの速度は長い間(2010年くらいから)1Gbps(1000Basee-T)でした。

ここ5年くらいで少しその様子が変わってきて、次世代である2.5Gbps(NBase-T)や10G(10GBase-T)という高速機器が個人でも買えるようになってきました。

ですが、そういったネットワーク機器を利用する時には、LANケーブルにも少しばかり気を配る必要があります。

今回は、2.5Gbpsや10Gbpsといった高速なネットワーク機器を利用する時のLANケーブルについてのお話です。


1. はじめに

ネットワークのうち、社内や家庭内のネットワークをLAN(Local Area Network)と呼びます。当初は10Mbps程度でしたが、今ではその100倍の 1Gbps という速度の機器が標準的です。 最近はさらに高速な2.5Gbpsや10Gbpsといった機器も個人で手の届く価格帯になってきています。 ただし、高速な通信を行うには、接続する機器(例えばルータとパソコン)の両方が2.5Gbpsや10Gbpsといった高速通信に対応していなければなりません。 片方だけが高速な場合でも通信はできますが、その場合は遅い方の速度でしか通信はできません。 こういった場合、機器の性能には皆さん注目されますが、意外と見落とされがちなのがLANケーブルの存在です。 今回はそのLANケーブルにスポットをあててお話をします。

2. LANケーブルにも種類がある

LANケーブルには、主に利用できる通信速度に合わせていくつかの規格(カテゴリ)が定められています。 以下に、カテゴリ名と最大通信速度をまとめます。  1. カテゴリ5e   1Gbps  2. カテゴリ6A  10Gbps  3. カテゴリ7A  10Gbps (6Aよりもよりノイズに強い)  4. カテゴリ8   20Gbps以上(現状ではほぼ専門家用) このうち、カテゴリ5eというのは、多くの方がインターネットを使い始めた頃から存在している規格で、それさえあれば困ることはなかったんです。 むしろ、LANケーブルに種類があることを知ってる人の方が少数派でしょう。 ですが、上述の通り、2.5Gbpsや10Gbpsでの通信を行いたい場合は、より上位のカテゴリのLANケーブルが必要となるのです。

3. 高速化対応とは何か?

カテゴリが違うLANケーブルであっても見た目ではほぼ同じで、さしたる違いはなさそうに見えます。 では、何が違うかというと、ノイズ対策の違いです。 かなり荒っぽい表現ですが、カテゴリの数字が大きくなればなるほど、ノイズ対策にコストをかけたLANケーブルになるのです。 通信をするためには、ノイズは少ないに越したことはありません。 一方で通信の高速化というのは、早口をさらに超早口で話すことになりますから、ちょっとした周辺のノイズでも、データ化けになりかねません。 そのため、高位カテゴリのLANケーブルはできるだけノイズを受け取らないような工夫がたくさん施されています。 (ノイズ対策のお話は末尾の余談にまとめました。ご興味のある方は是非)

4. 実は、規格外のLANケーブルでも通信できたりして

上では適切なLANケーブルを使うと書きましたが、実際には、例えばカテゴリ5e(最大対応速度は1Gbps)でも、2.5Gbpsの高速通信ができてしまうことも多いのです。 なぜか? 電気信号というのは、離れているほど信号の劣化は大きくなりノイズを拾う機会も増えてしまいます。 つまり、長さが十分に短かければ(例えば1m)信号劣化も少なく、ノイズを拾う機会も少ないので、トラブルなく通信できることも多いのです。 ただし、それは「今は運良く通信できている」に過ぎません。 近くで強いノイズが発生すれば、短かいLANケーブルであってもトラブルになるわけです。 上位カテゴリの規格の価値は、仕様上の最大長のLANケーブルでも通信内容を保証している点に価値があるからです。

5. じゃあ、常に高位のLANケーブルを買うのがいいのか?

だからといって、常に上位カテゴリのLANケーブルを買えば安全というわけでもありません。 2025年現在、多くのネットワーク機器は1Gbpsまでの対応ですから、カテゴリ5eのLANケーブルで十分です。 ここで敢えてカテゴリ6Aや7AのLANケーブルを購入するとむしろ問題が起きる可能性があります。 上位カテゴリの製品はノイズ対策を施すためにLANケーブルは太く重くなりがちです。そのため、家庭や小さなオフィスでは取り回しがしにくくなります。 特にカテゴリ7AのLANケーブルの多くは、設置条件もシビアです。 例えばLANケーブルを曲げたい時には、規定された最少曲げ半経にしたがって曲げなければいけません。LANケーブルが通らないからと部屋の角で直角に曲げるようなことはしてはいけないのです。 ですので、LANケーブルについては、「大は小を兼ねる」は通用しません。素直に通信速度に合ったLANケーブルを購入するようにしましょう。

6. まとめ

LANケーブルには、最初に書いたように、カテゴリ5e、6A、7A、8といったものがあります。 通信速度などよくわからないよ、という方はカテゴリ5eのLANケーブルを買ってください。 もし、高速通信機器を持っていて高速通信をさせたいなら、カテゴリ6AのLANケーブルで十分です。 ただし、工場などで強烈なノイズが発生する場所に10Gbpsなどの高速通信機器を長いLANケーブル(例えば50m)を設置するなら、カテゴリ7Aの方が望ましいケースもあります。 ですが、そういった判断は一般の利用者の手に余ります。 ですので、ちゃんと専門業者に相談し、工事も専門家にまかせることが最善です。 なお、LANケーブルは永遠に使えるものではありません。しかし、年数が経つと劣化することも多く、そんなLANケーブルを使い続けることは、手間のかかるトラブルの伏魔殿となりかねません。 長期間(例えば10年)利用したLANケーブルはちょっともったいないですが、廃棄することをおすすめします。 今回はLANケーブルについてお話しました。 次回もお楽しみに。 (本稿は 2025年5月に作成しました) ※以下は余談です。技術面に興味のある方だけどうぞ。 (余談:LANケーブルのノイズ対策技術) ここでは、カテゴリ6Aや7Aがどのようなノイズ対策を取っているのかを説明します。 まず、全カテゴリのLANケーブルはツイストペアという2本の電線をよりあわせた(ねじった)ような構造にしています。 LANケーブルの中には8本の電線が入っているのですが、信号は4つだけです。実際には8本を4x2に分けて、4つの信号を2本づつ流しています。 さらに、2本の電線に流す電気は逆相といって、プラスマイナスを逆転させた状態で送っています。詳しい説明は略しますが、この方式(差分信号)を取ることで、非常にノイズに強くできるのです。 ちなみにツイスト(ねじり方)についても高価なLANケーブルではペア毎にねじる量を変えていて、それによって他のペアとの混信(クロストーク)も防ぐようになっています。 また、カテゴリ6A以上では、ペアシールドという対策も取られています。これは上述のツイストペア毎に、アルミ箔のような薄い金属で電線を覆う方式です。 そのアルミ箔はアースに接続されていて、多少のノイズが来ても、電線に影響を受けずにそのノイズをアースに流せる仕組みになっています。 さらにカテゴリ7A以上では、LANケーブルの中にスペーサと呼ばれる柔かなプラスティックの十文字の部品でLANケーブル内を4つのブロックに分割しています。 そして、4つのツイストペアが個別のブロックに入るようにして、電線が接近しないようになっています。(これも混信(クロストーク)を防ぐ技法) こんな風に厳重にガードをしているわけですから、設置する時にもいろいろと制約が出てくるわけですね。 (余談終わり)

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