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メールマガジン「がんばりすぎないセキュリティ」No430 (25/10/27)

「専門バカ」というワナ(430号)


ここしばらく、筆者の会社の確定申告(決算)を行っていました。
決算書の中には、文章で説明しなければならない書類(法人事業概況説明書)もあります。

この説明は、読者である税務署の職員さんに正しく伝わるように書き方が要りますが、これが意外に難しい。
誤解されないように、でも堅くなりすぎないように。たった数行なのに、chatGPTの助けももらいながら、悩み悩み書きました。

この「伝わるように書く」という難しさは、どんな文章でも同じでしょう。
今回は、前回のマニアックな話の反動というわけではありませんが、少し肩の力を抜いて、「専門バカにならない書き方」についてお話します。


1. 専門バカ

専門バカという言い回しがあります。 これは、高度な専門技術を持つ人ほど陥りがちなワナです。 同業者なら、当然のコトバなのに、世間では全く認知されていない――そんな言葉なんていくらでもあります。 だからといって、その用語をそのまま使うと、聞かされる方はたまったもんじゃありません。 「なんだよ、専門用語ならべて、えらそうにしやがって」 「熱心に話してるのをさえぎるのも悪いもんな...」 話す側に悪気がなくても、これでは互いに疲れてしまいます。 確かに知識をひけらかすような話のしかたをする人もいます。 でも、多くの技術者や研究者は、相手に合わせた話ができていない、だけなのだと思います。

2. 読者を知る

「専門バカ」と言われるような方でも対面で話をすると、実に丁寧にわかりやすく話ができる方もおられます。 これ、相手の反応を見て、話のレベル調整ができるからなんですね。 ところが、講演会のように多数を相手に話をする場合、そうはいきません。 ましてや、「がんばりすぎないセキュリティ」のように、文章で書くとなると難易度はさらに上がります。 なので、筆者は文を書く時に読者を思い浮かべながら書いています。 マーケティング分野でよく言われる「ペルソナ」ってやつですね。 ご存知の方も多いと思いますが、お店なんかを運営する時には、多数に「まあまあ」と思ってもらうより、少数でも深く刺さる方が成功する、という話がありますよね。 ペルソナってのは、その深く刺さりそうな人を模索、設定することです。35才の女性、既結婚、子供が2人、...みたいな、キャラ設定ですね。 このマガジンの例ですが、筆者と面識のある方が多数おられます。 お客様、セミナーで出合った方、取引先のご担当、バーのマスター、などなど。 こういった具体的な顔(ペルソナ)を思い浮かべれば、その方にとってわかりやすい文章になる。筆者はそう思いながら、いつも書いています。

3. ギャップを埋める

誰だって、知らないことは話せません。 あたりまえです。 じゃあ、専門家ならできるのか? これも、必ずしも「はい」とは言いきれません。 上で書いた通り、読者の知識や前提がイメージできたとしても、それを相手にわかる表現に落とし込む作業、つまり、両者のギャップを埋めなければいけません。 これが意外にも難しい作業なのです。 なぜなら、そこには専門文野とは違ったスキル――伝えるための言葉選び、適切な例え、といった「創造力」が必要になるからです。 ですが、これを身に付けるには、鍛練が必要です。 筆者は過去に多数のメール、それも相手にわかってもらいたいメール、考えてもらわないといけないメールを書いてきました。 相手にわかってもらうための訓練をさんざん繰り返してきていたのですね。 学者にも二つのタイプがあると聞きます。 先端の研究を得意とするタイプと、その成果を噛み砕いて説明できるタイプ。 筆者は明らかに後者に属していて、ギャップを埋めるのが得意なのでしょう。 こう考えると、専門家として先端をつき進んでいる方に、「もっと、わかりやすく説明してよ」というのは、ないものねだりなのかもしれませんね。

4. 過度な省略の罪

「説明が長くなりすぎるんなら、省略したらエエやん」 これは、いつも、筆者が文章を書くときに出てくる「悪魔のささやき」です。 これに負けないように文章を書くのはかなり大変です。 情報セキュリティなんて特にそうなのですが、説明が非常に面倒な話が多い、抽象的でわかりにくいことだらけ、それを知っても生活の足しにはならない、という三重苦です。 こうなると多少、省略したって、誰も損はしないんじゃない?と思うわけです。 実際、そういった思考停止しちゃった文章はあちこちで見ます。 最近であれば、パスキー=顔認証、という誤解がその最たるものです。 (あれ?違うの?と思った方は、以下をどうぞ)  パスキーはパスワードと何が違うの?(414号)2025年7月配信  https://note.com/egao_it/n/nb797767ed93f でも、そういう省略や妥協のないハードボイルドな文章を求める人は必ずいます。 少なくとも、この文を読んでいるような好気心旺盛な皆さんは、そんな誤解を招きかねない省略された文章など求めていないはずです。 例えそれが少数派であったとしても、筆者としては、そういう方に応えられる文章を書き続けたいと考えています。 余談ですが、まんがの神様、手塚治虫さんの逸話でこんな言葉があります。 「ボクは手抜きをしたくなった時の戒めとして”作者の手抜き、天知る、地知る、読者知る”というのを銘としています」 読者って思いのほか、スルドいんですよね。

5. まとめ

今回は、「がんばりすぎないセキュリティ」には珍しく、自分語りの回となりました。 特にこの2年ほどは、筆者自身が思うところもあり、読者を意識した文章やテーマ選定を心がけています。 読者におもねるのではなく、「きっと皆さんが知りたいと思ってるに違いない!」――そんな旬なお話を今後もご提供し続けます。 知りたいテーマなどございましたら、是非、筆者に教えてください。 (このメールに返信いただけましたら、筆者に届きます) 次回もお楽しみに。 今日からできること:  ・気になるセキュリティねたは、迷わずご連絡を(お願い!)  ・セキュリティ対策の記事で見かける「過度な省略」にはご注意を。 (本稿は 2025年11月に作成しました) Content-Disposition: form-data; name="updateEgaoit"

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