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メールマガジン「がんばりすぎないセキュリティ」No371 (24/09/09)

情報の取捨選択に必要なこと(371号)


前回は、米不足騒動を題材として、それをリスク管理に適用したらどうなるかをお話しました。

その中で、マスコミは衝撃的な映像で人々の不安を煽ろうとするから複数の情報源を持つことが大切だということを書きました。

今回はその続きとして、情報の正しさの見極め方の一例として筆者の考えをお話しします。


1. 報道を知ること

一つのメディアの報道だけを見て、その正誤の判断をするなんてことは神様でもなけりゃできません。 その報道には必ずバックグラウンドがあり、その問題や課題解決に取り組む人々がいます。 メディア報道では、時間や紙面の制約からその全てを伝えることができません。 というか、記者の日報や取材手記みたいなのを丸ごと報道されても困ります。読者は短時間で事実を知りたいのです。取材内容の全てを知りたいわけではありません。 報道をする側は「きっと読者が知りたいはずだ」と考える情報を伝えようとします。 ですが、これが余計なお世話になることも多いのも事実。 米不足報道だってそうですよね。 「米が足りなくてスーパーの棚が空っぽの状態」の報道はニュースとして絵になります。となると、スーパーに米がたくさん売られている様子は映せず、米が品切れのスーパーを探して報道をします。 この報道を見た視聴者が「これは大変」とばかりに日頃より大量の米を買い込めば、米不足報道が現実のものとなります。 何のことはない、米不足が報道によって加速されているのです。 報道内容にウソはなくても、実態をはるかに越えて加速させるという意味ではマスコミ報道の影響力はいまも大きいのでしょう。

2. 事実を知る対策

こういった報道に踊らされない方法は、前回も書いたように複数の情報源(情報ソース)を持つことが一番の解決策です。 ここで言う情報源はマスコミだけに限りません。 各業界の知人や友人はもちろん、評論家などの専門家、雑誌やブログの記事や動画、公的機関の公式発表(プレスリリース)などなど、いずれも有意義な情報源です。 日常的な報道を聞いた時に「ホントか?」と思うことがあれば、こういった情報源にあたってみれば良いわけです。 そうすれば、「ホントだったのか。これは大変」となることもあるでしょうし、「なんだよ。大した話じゃないし」となることもあるでしょう。 ただ、こういった情報源を見つけるには、日常的な情報収集が必要です。 つまり、時間と労力がかかります。 「そんなヒマなんかないよ」という方は、まずは日常的に見ている情報源の時間を3割減らしてください。 その時間を使って同じ事件を他の情報源で追ってみるのです。 同じ事件であっても、情報源によって視点や扱いが随分違っていることがわかると思います。

3. 一次ソースと二次ソース

さて、情報には一次情報(一次ソース)と二次情報(二次ソース)があります。 一次ソースというのは、その情報の発信元自身が発表する内容です。 会社がWebサイトなどに掲示した内容(プレスリリースなど)が典型的な一次ソース、農林水産省による米の出来について発表や○○白書も一次ソースです。 これに対して、当事者以外による報道は全て二次ソースです。 この両者の大きな違いは、情報の取捨選択時の慎重さです。 一次ソースはその報道内容の全てに責任を持ちますから、何を公開内容として、何を非公開とするか、また公開情報の詳細に至るまで慎重に検討を重ねています。 そのため、一次ソースにウソや私見が混じることはまずありません。 一方で、二次ソースの多くはスピードが求められます。 そのため、二次ソースは一次ソースのような慎重な内容精査を行う余裕がありません。 結果として、取材側の私見に基づいた報道とならざるを得ません。 私見が入るのが悪いとは言えませんが、記者の技量が低いと一次ソースを歪めた報道となる可能性があります。 じゃあ、一次ソースで全てをまかなえるかというとそうもいきません。 一般に一次ソースは精密で正確な分、情報量が多く読み解くのに時間がかかります。 二次ソースのメリットはこういった繁雑な情報を整理して重要と思われる点を抜き出してくれる点にあります。 まとめます。 一次ソースは情報の発信者が責任を持って発信するものですから、内容は細かく精査されており、内容に誤りはありません。その代わり分量が多く、理解するのに時間がかかります。 一方で、二次ソースは時間や紙面の制約の中で私見も混じえてわかりやすく報道される点が最大のメリットです。 また、多くの一次ソースを横断して重要な点をピックアップして伝えてくれるメリットもあります。 全てを一次ソースだけでまかなうのは現実的ではありませんが、逆に二次ソースを絶対に正しいものとして扱うと足元をすくわれる場合もあるわけです。 日常的には二次ソースが足がかりだが、必要となれば一次ソースにあたる習慣を身に付けておくことで、不必要に二次ソースに踊らされずに済みます。

4. 意見は変わってもいい

今まで、二次ソースだけを見ていたが、一次ソースを確認すると「全然話が違うやん」となることは意外に多いものです。 また、複数の二次ソースを利用するようになると、当初は良いと思っていた二次ソースが「イマイチだったな」となることもしばしばです。 結果として自身の意見が変わることもあるわけですが、それはそれで良いことだと筆者は思います。 意見の変化は過去の否定ばかりではありません。 より良い意見の発見であり、乗り換えなのですから。 自身の意見というのは触れる情報によって変わるものです。 (今の若い人は新聞など読まないでしょうが)朝日新聞は一般的に左派(革新系)紙と言われますから、左派を支援する人が多いでしょう。 一方で産経新聞は一般的に右派(保守系)ですから右派の人が多いでしょう。 ですが、左派の人が産経を読んだり、逆に右派の人が朝日を読んだりすると、今までの考えに偏りがあったことに気づきます。 新たな視点が増えることで、他者の意見を受け入れる巾が拡がります。これはとても良いことです。 それによって、意見が変わっても何も問題はありません。 より良い意見を得るに至ったのも、過去に愛読した二次ソースや上記のような違った意見に触れたおかげ、なのかもしれませんしね。 こういった考え方の変化、意見の変化というのは、それだけ考えが深まったことを示すわけですから、むしろ誇るべき成果だと思います。

5. まとめ

今回は、情報収集をする時に気を付けるべきポイントについてお話しました。 情報の質の話などと言うと政治経済など難しいイメージかもしれません。 でも、皆さんも身近で日常的に行っていることです。 例えば、家電を買う時には量販店の店員さんにも話を聞きつつ、メーカのWebサイトも確認し、レビューサイトの情報も見るといった行動を取る方が多いと思います。 コンビニをはしごしてスイーツやおいしいお弁当を探すのもそうですよね。 業務で何かの機材を買う時も販売業者の言うことを「うのみ」にする人は少ないでしょう。同業者に聞いたり評判をネット検索したりというのは皆さんが行っていることです。 いずれも複数の情報源を上手に活用してより多くの情報を得る良い例です。 今回は、情報の取捨選択についての筆者の考えを述べました。 次回もお楽しみに。

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